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    非営利団体の「パスワード問題」解決ガイド

    付箋、使い回し、退職者アカウントの放置。多くの団体で起きているパスワードの問題は、職員への注意喚起ではなく「覚える数を減らす仕組み」で解決できます。3つの方法と選び方を解説します。

    最終更新: 2026年7月18日

    現場で起きていること

    サービスの数だけパスワードが増える

    メール、勤怠、記録システム、Slack、Canva——便利なツールを導入するほどログインが増えます。人は10個も20個も強いパスワードを覚えられないので、どこかで無理が出ます。

    付箋と使い回しが生まれる

    「モニターに付箋」「全部同じパスワード」「共有アカウントを全員で使う」。どれも現場ではよく見る光景ですが、1つのサービスから漏れたパスワードで他のすべてに入られる状態です。

    退職者のアカウントが残り続ける

    職員が退職したとき、どのサービスにアカウントがあったかを思い出しながら1つずつ消して回るのは大変です。消し忘れたアカウントは、そのまま外部から団体の情報に入れる入口になります。

    「注意喚起」では解決しない

    この問題の本質は、職員のITリテラシーではなく仕組みにあります。「パスワードは使い回さないでください」と呼びかけるだけでは、覚えられない数のパスワードがある現実は変わりません。

    コラム: 「定期的に変更しましょう」は、もう古い

    「パスワードは定期的に変更しましょう」——長らく職場の常識だったこのルールは、実はもう推奨されていません。総務省の「国民のためのサイバーセキュリティサイト」によると、2017年に米国立標準技術研究所(NIST)が「サービスを提供する側がパスワードの定期的な変更を要求すべきではない」とガイドラインで示し、日本でも内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が「定期変更する必要はなく、流出時に速やかに変更する」という考え方を示しています(2026年7月時点の同サイトの記載)。

    理由は少し意外です。定期変更を強いられた人は、覚えやすいパターン(末尾の数字だけ変える等)や使い回しに流れやすく、かえってパスワードが弱くなるから。つまり「人の記憶と努力に頼る運用には無理がある」と、公的機関が認めた形です。いま推奨されているのは、定期的に変えることではなく、長くて使い回しのない固有のパスワードを最初から設定すること——そして、それを10個も20個も人力で管理するのは無理なので、このページで紹介する「覚える数を減らす仕組み」の出番になります。

    団体のルールを見直すチャンス

    もし団体に「3か月ごとにパスワード変更」のようなルールが残っているなら、その手間を「パスワード管理ツールやSSOの導入」に振り向けるほうが、いまの公的な考え方に沿った改善になります。

    解決の3つの方法

    どの方法も目指すところは同じです——職員が覚えるものを1つに近づけること(多要素認証の確認コードや、SSOに対応していないサービスなど、覚えるものが完全にゼロになるわけではありません)。違いは「どこを入口にするか」です。まずは自団体の状況に近いものを目安にしてください(詳しい比較は各項目のあとに続きます)。

    団体の状況まず検討する方法相談先
    使うサービスが多様で、まず今日から始めたい①パスワード管理ツールまずは自分たちで導入可(法人内で契約担当がいれば相談)
    Business Premium(非営利75%割引)など有料のMicrosoft 365を契約済み②Entra IDでのSSO(連携先のプランがSSO対応か要確認)法人内の管理者・情報システム担当、または導入支援業者
    無償プラン中心、GoogleとMicrosoftが混在、職員50人以下③Okta for Good(50席無料)法人内の管理者・情報システム担当、または導入支援業者

    パスワード管理ツール(1Passwordなど)

    全サービスのパスワードを1つの「金庫」(ボールト。パスワードをまとめて暗号化して保管する場所)に入れておき、職員が覚えるのは金庫を開ける「マスターパスワード」1つだけにする方法です。サービスごとに強いパスワードを自動生成でき、チームでの安全な共有もできます。SSO(後述する、他サービスに自動でログインする仕組み)に対応していない小さなサービスも、この金庫にまとめて保管できるのが強みです。

    向いているケース: 使うサービスが多様で、まず今日から現実的に始めたい団体。

    1Passwordには非営利向けの支援があります(割引率などの内容は公開されておらず、団体ごとの個別審査です)。

    手元のスイートでSSO(Entra ID / Google)

    Microsoft 365やGoogle Workspaceのアカウントを「鍵」にして、SlackやZoomなど他のサービスにそのままログインする方法(シングルサインオン、SSO)です。Entra ID(旧Azure AD。Microsoft 365のログインを管理する仕組み)やGoogle Workspaceのログイン管理機能がこの「鍵」の役割を担います。覚えるログインが1つになるだけでなく、退職時にスイート側のアカウントを1つ止めれば、そこにつないでいた他サービスのログインもまとめて止まる状態を作れるのが大きな利点です。ただしこれには、連携先サービスでパスワードによる直接ログインを無効化しておくことと、アカウントを自動連携する設定(自動プロビジョニング)をしておくことが前提になります。連携先ごとに「パスワードでの直接ログインが残っていないか」の確認は必要です。すでに使っているスイートを活かせるのが魅力ですが、後述する「無料版の壁」があります。

    向いているケース: Microsoft 365 Business Premium(非営利75%割引)など、有料プランを契約済みの団体。使いたい連携先のSSO対応がそのプランに含まれるかは事前確認が必要です。

    中立のID基盤(Okta for Good)

    MicrosoftやGoogleのどちらにも属さない、ID管理専門のOktaを団体の「正面玄関」にする方法です。「中立」というのは、MicrosoftのサービスでもGoogleのサービスでも同じ入口としてログインを一元管理できる、という意味です。非営利団体はOkta for Goodでフル機能を50ライセンスまで無料で使えます。SSOに加えて、入職時のアカウント自動作成・退職時の一括無効化(あわせて「ライフサイクル管理」と呼びます。職員の入職から退職までのアカウントの発行・停止を自動化する機能です)まで無料枠に含まれます。

    向いているケース: 無償プラン中心の団体、GoogleとMicrosoftが混在している団体、職員50人以下の団体。

    知っておきたい「無料版の壁」

    「Microsoft 365もGoogle WorkspaceもSSOに対応しているなら、それで十分では?」——もっともな疑問です。ただし、無料・無償プランのままでは超えられない壁があります。

    Entra ID(Microsoft)の壁

    無償のBusiness Basicのままだと、「退職者が使っていた他サービスのアカウントを自動で止める」「特定の職員グループだけにアプリを配布する」といった、SSOを実務で使うための機能が使えません。これらは有料ライセンスの範囲になります。

    技術担当者向けメモ

    条件付きアクセス(状況に応じてログインを制限する機能)、グループ単位のアプリ割り当て、SCIM自動プロビジョニング(アカウントの自動作成・削除)は、いずれも有料のEntra ID P1ライセンスが必要です(Microsoft公式ドキュメントで確認)。無償のBusiness BasicにP1は含まれません。

    Microsoftの無償枠は2025年7月に縮小

    以前は上位プランの一部機能を無償で使える枠がありましたが、現在は廃止されています。上位機能が必要な場合は、非営利向け75%割引での購入が前提になります。

    技術担当者向けメモ

    以前はEntra ID P1を含むBusiness Premiumが10席まで無償でしたが、このグラントは廃止されました。現在の無償枠はBusiness Basic(最大300席)のみで、Premiumが必要な場合は75%割引での購入になります。

    Google Workspaceの壁

    SSO自体は無償プランでも使えますが、「退職時に他サービスのアカウントも自動で止める」対象数がプランによって少数に限られます。

    技術担当者向けメモ

    アカウントの自動プロビジョニングはBusiness Starterで3アプリまで、上位エディションでも100アプリまでという制限があります。

    だから非営利では「逆転」が起きる

    MicrosoftやGoogleは、SSOを実務で使うための機能を有料の上位プランに置いています。一方Oktaの寄贈は最初からフル機能です。無償プラン中心の団体では「Okta for Goodのほうが、手元のスイートより機能もコストも上」という逆転が現実に起こります。

    目安として

    Business Premium(75%割引)を契約済みならEntra IDが自然な選択。無償のBusiness Basicだけ、またはGoogleとMicrosoftが混在しているなら、Okta for Good(50席まで無料)を先に検討する価値があります。Oktaの通常価格は1人あたり月$6〜$17なので、寄贈の価値は小さくありません。

    はじめの一歩

    01

    使っているサービスとログインを棚卸しする

    団体で使っているクラウドサービスを書き出し、それぞれ「誰が」「どのアカウントで」入っているかを整理します。共有アカウントや、退職者のアカウントが残っていないかもここで確認します。

    この棚卸し自体が、パスワード問題の大きさを把握するいちばんの近道です。30分で構いません。
    02

    方式を選ぶ

    「解決の3つの方法」の判断表を目安に、有料のMicrosoft 365(Business Premiumなど)を契約済みならEntra IDでのSSO、無償プラン中心ならOkta for Good、SSO非対応のサービスが多いならパスワード管理ツール——を起点に選びます。SSOとパスワード管理ツールの併用も現実的な解です。団体全体のログイン方法を決める話なので、迷ったら判断表の「相談先」も参考に、関係者と方向性を共有してから進めるとスムーズです。

    Okta for Good の内容と申請手順はOkta導入ガイドにまとめています。SSOの接続設定には各サービスの管理者権限が必要です(自分で設定しない場合は、法人内の担当者や導入支援業者に依頼できます)。
    03

    1つのサービスから小さく試す

    いきなり全サービスを切り替える必要はありません。まずはSlackなど1つのサービスをSSOにつなぐ、あるいは管理者チームだけでパスワード管理ツールを使い始めるなど、小さく試してから広げるのが安全です。SSOの接続設定には、つなぐサービスの管理者権限が必要です。切り替え後はログイン方法が変わるため、利用する職員への事前の案内もセットで計画しておくと混乱がありません。

    多くのクラウドサービスの無料・割引プログラムと同じく、SSO連携の設定は管理者権限があれば費用をかけずに試せます。ただし連携先サービスのプランによっては、SSO機能自体が上位プラン限定のことがあります。

    このガイドは2026年7月時点のOkta・Microsoft・Google・1Passwordの公式情報、および総務省「国民のためのサイバーセキュリティサイト」の記載にもとづいています。各プログラムの内容は変更されることがあるため、導入前に公式ページで最新の条件をご確認ください。

    関連ガイド

    方式が決まったら、それぞれの導入ガイドへ。Okta for Goodの申請にはGoodstackの団体認証を使います。